第7章 たとえば、君を語る倖せ【クロスオーバー】
*Side 黄瀬*
ザーッと降り続いた雨がパラパラと音を変えた頃。
雨音の変化に最初に気がついたのは黄瀬だった。
「雨、小降りになってきたっス」
「あぁ、本当だ」
湿気った空気に金色の髪をかき上げた安室は、小さくため息を吐く。
ふいっと日番谷がまだ分厚い雨雲を見上げた。
「部下の用事が済んだようだな。俺は帰る」
「じゃあ、僕もそうしようかな。これくらいなら、濡れても支障はないだろうし」
アピスの言葉に、安室も「そうですね」と頷く。
「俺も行くっス」
早く彼女に会いたいし、と心の中でつけ足した。
全員が軒下の外へと足を踏み出したかと思うと、まるで示し合わせたように顔を見合わせる。
数秒の沈黙の末、四人は一斉に視線を逸らした。
「今回は引き分けましたが、次は必ず言い負かしてみせます」
「望むところだよ。もちろん、次があればだけどね」
不敵に口角を上げる安室とアピスに、黄瀬はムッとして割り込んだ。
「オレだって負けないっスよ! オレの彼女が一番だって、次は分からせてやるっス!」
「バカの遊びにいつまでもつき合ってられるか」
呆れた様子の日番谷に、安室がクスリと笑う。
「日番谷君も、随分と真剣だったと思ったんですが」
「いいさ。彼の可愛い部下への愛情は、僕らほど強くないってことで」
「なんだと?」
眉間に深くシワを寄せて睨み合うこと十数秒。
フンッと顔を背け、四人は愛する者の待つ場所へ向かった。