第7章 たとえば、君を語る倖せ【クロスオーバー】
*Side 安室*
「きっと、俺の彼女よりカワイイ子はいないと思うっス」
黄瀬の言葉を、安室は聞き流すことができなかった。
「……そうですか。それは、さぞ可愛らしい彼女さんなんでしょう……が、それはさすがに誇張しすぎでは?」
「そうだね。君の彼女は可愛いかもしれないけど、君の彼女より可愛い女の子はいると思うよ?」
安室の言葉にアピスが続く。
アピスの口調が変わっていることには気づいたが、今はそれよりも大事なことがある。
「へぇ……俺の彼女よりカワイイ子って、いったい誰っスか?」
売り言葉に買い言葉、というわけでもないだろうが、黄瀬は琥珀色の瞳に挑戦的な色を宿して二人の視線を受け止めた。
「それは……」
「……もちろん」
「僕の恋人ですよ」
「僕の婚約者だよ」
安室とアピスの言葉が見事に重なる。
そんな様子を見て、日番谷が呆れたようにため息を吐いた。
安室の青い瞳とアピスの飴色の瞳が交錯する。
「ほぅ……僕に対抗するとは、よほど自信があるようですね、アピスさん」
「そっちこそ。僕の婚約者に勝てると思っているのかい? 言っておくけど、僕の婚約者はそこらのお姫様とはわけが違うよ」
女性を『姫』と形容するとは、どこの国の王子だよ。
……という言葉は、今回は呑み込んでおく。
「僕の恋人は、可愛いだけではなく、外見はもちろん、心も綺麗な女性です。泣いた赤ん坊に手を煩わせる母親に代わって、子守唄を歌って寝かしつけるくらいは序の口ですよ」
「そんなの! 俺の彼女だって同じっスよ! 不良に絡まれた見ず知らずの女子高生助けて、名乗らずに立ち去るみたいな、スッゲーカッコいい子っス!」
「だから何だい? 僕の婚約者だって、枯れた花や伐採される木を見て心を痛め、涙を流すほどのお人好しだよ」
バチバチッと火花が爆ぜる。
互いに一歩も譲らない空気の中で、アピスが沈黙を守っていた日番谷を見た。
「君……日番谷君だったね。君も言いたいことがあるんじゃない? そんな顔をしているよ」
* * *