第7章 たとえば、君を語る倖せ【クロスオーバー】
*Side 黄瀬*
バケツをひっくり返したような。
雨が降る様子を表す言葉にそんな表現があるが、今日の雨はまさにそれだった。
天気予報は大外れ。
「今日は快晴です」と言いやがった気象予報士を怒鳴りつけてやりたい。
せっかくのデートだったのに。
それでも彼女は、柔らかな笑みを浮かべるのだろう。
喫茶店でお茶をするだけだって、とても楽しい……と。
携帯を取り出し、黄瀬 涼太は愛しい彼女へ電話を掛ける。
三回目のコールで、耳に心地のいい声が「黄瀬くん?」と自分を呼んだ。
「うん、ゴメン。雨がヒドくて、少し遅れるかもしれないッス」
ゴメン、ともう一度謝れば、彼女は笑って『気にしないで』と言ってくれた。
『雨足もヒドくなってきたし、どこかで雨宿りした方がいいよ。たぶん、お天気雨だし、すぐに止むから。私のことは気にしないで。黄瀬くんを待ってる時間も好きだから』
すごくドキドキして、すごくワクワクするもの。
弾んだ声で話す彼女に、胸がキュゥウンと鷲掴みにされる。
あぁ……彼女はいったい、どれだけ自分を夢中にさせれば気が済むのか。
もうこれ以上、彼女を好きになることはできない。
そう思っているはずなのに、彼女への想いは募るばかりだった。
* * *