第7章 たとえば、君を語る倖せ【クロスオーバー】
*Side 日番谷*
現世にて異常な霊圧を感知した。
そんな報告を受け、護廷十三隊の十番隊隊長である日番谷 冬獅郎は、部下である十番隊第三席を伴って現世へ降り立つ。
義骸(ギガイ/人間に成りすます仮の肉体)に入り、現世の人間から情報を収集することで、元凶となる虚(ホロウ)を見つけ、倒すことに成功した。
予定よりも早く任務を終えた二人は、日番谷の提案で『現世見物』をすることに。
本来なら素早く戻って報告書を作成するところだが、恋人である三席の喜ぶ顔が見たいという下心も少なからずある。
案の定、甘いものに目のない彼女は、目をキラキラと輝かせ、「行く!」と声を弾ませた。
現世と自分たちが住む『尸魂界(ソウル・ソサエティ)』とでは、文化に違いがあり、現世でしか食べられないものも存在するのだ。
こういうのも、たまには悪くない。
普段は人形のように表情を変えない彼女が、外見年齢相応の無邪気さで笑う瞬間が、日番谷は密かに好きだった。
それが――……。
「はぁ……ったく」
何でこうなった、と思わずにはいられない。
突然雨が降り出し、傘を持たない二人は雨宿りができる場所を探していたわけだが。
遠くで虚の気配を察知し、彼女は義骸を脱ぐことなく雨の中へ駆け出して行ったのだ。
彼女の力量を考えれば、心配など必要ない。
問題なのは、ただ自分の心だ。
面白くない。面白くないのだ。
己の外見が子どもと変わらないのは分かっているが、『子どものように拗ねてしまう』のを止められない。
「あぁ……っ、くそ!」
頭を掻きながら、とりあえず雨宿りできる場所を探す。
場所を移ったとして、霊圧で探し当てることは充分可能だ。
せめて雨だけでも上がれば、気持ちも晴れる。
雲の切れ間から覗く光を見上げ、日番谷は再びため息を吐いた。
* * *