第7章 たとえば、君を語る倖せ【クロスオーバー】
*Side アピス*
毒薬の国アベーテルの王子であるアピスは、気がつけば見知らぬ場所にいた。
先ほどまで一緒にいたはずの、同じ毒薬の国の王子たちも見当たらない。
土砂降りの雨の中では、アベーテルではまだ珍しい『自動車』が、当たり前のように走っている。
彼の国を擁する『夢王国』では、稀に不可思議な現象が起こる為、さほど取り乱すことなく冷静でいられた。
直前まで一緒にいたことを考えると、他の王子たちもこの街にいると考えて間違いはないだろう。
帰る方法など分からないが、たまに『夢王国』を訪れる『異訪者』たちも、二〜三日で己の世界へと帰っている。
自分もまた、何かのきっかけで帰れるはずだ。
政務が滞ってしまう、と頭を抱えたくなったが、抱えたところで事態は一ミリも動かない。
心配なのは、婚約者である彼女のことだ。
自分の姿が見えないことに、きっと心配していることだろう。
多少強引な手段を使ったが、彼女とは正式に婚約を結ぶことができた。
後は式の日取りやドレスを選び……それを考えるだけで浮足立ってくる。
彼女自身も、ようやく自分に心を傾けてくれるようになったのだ。
それを考えると、やはり一刻も早く己の世界へ帰らなければ。
「とりあえず、雨をしのげる場所かな……」
髪も服もびしょ濡れである。
あまり認めたくはないが、体調を崩しやすいことは分かっている。
見知らぬ場所で土地勘などあるはずもなく。
適当な軒下でいいか、とアピスは辺りを見渡した。
* * *