第7章 たとえば、君を語る倖せ【クロスオーバー】
*Side 安室*
「もしもし、安室です。……すみません。仕事が長引いてしまって」
日々 トリプルフェイスに忙しい安室 透は、今日は『降谷 零』として警察庁へ登庁していた。
午前中から書類の山と格闘し、ようやく片づけたと思えば、約束の時間ギリギリである。
大幅に外れた天気予報のせいで、外は土砂降り。
雲の隙間から晴れ間が覗いているし、雨自体は激しいが、そんなに長くは続かないだろう。
それでも、自動車を飛ばして約束の時間に間に合うのか、というと、それは別の話だ。
約束に遅れる旨を電話で告げれば、彼女は『お疲れさまです』と鈴を鳴らしたように澄んだ声で言葉を紡いだ。
それだけで疲れた心が癒される。
『急がなくて構いません。事故に遭っては大変ですし……どこかで雨宿りしてから来て下さい。私も明日は学校がお休みですから、多少遅くなっても平気です』
遅れた分、長く一緒にいる。
そう気遣ってくれているのだと分かり、安室は今すぐにでも彼女を抱きしめたくなった。
どうして、彼女の声は聞こえるのに、ここに彼女はいないのだともどかしい気持ちになる。
そんな気持ちを抑え、努めて平静な声で「そうします」と答えた。
「では、お言葉に甘えて、少し雨宿りして来ます」
『はい。お待ちしてます』
あぁ、どうして傘を持って来なかったんだ。
あれだ。今朝のお天気アナが、「快晴」と断言したからだ。
テレビ局に乗り込んで、そのお天気アナに文句を言ってやりたい。
もちろん、半分は冗談だが。
はぁ、と大きなため息を吐く。
早く彼女に会いたかった。
* * *