第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
――冷たい君の手が私の弱さ そっと抱く
――微かな祈りさえ いつの日か砕けても
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瀞霊廷にある、殉職した隊士の眠る慰霊碑。
鳥型の中級大虚(アジューカス)を倒した翌朝、日番谷がそこを訪れると、すでに先客がいた。
石碑の前で風に黒髪を遊ばせながら歌っているのは、十番隊第三席の日生 詞織だ。
いつものように淡々と。
けれど、今日は旋律が微妙に違った。
それは本当に微かな違いで、どこか鎮魂歌を思わせる。
不意に、旋律が途切れた。
振り返った少女の紅黄色の大きな瞳が、日番谷を捉える。
「日番谷隊長」
「日生、お前も来てたのか」
ゆっくりとした歩調で、詞織の隣に並んだ。
正面からは見えないが、石碑の裏には殉職した隊士の名前が刻まれている。
そして昨日、新たに十番隊第四席の名前が刻まれた。
「昨日はありがとうございました。日番谷隊長が来てくれなかったら、わたしはあの虚(ホロウ)を倒すことも、四席の仇を討つこともできなかったと思います」
「気にするな。タイミングが良かっただけだ」
四席が庇った隊士が目を覚まし、中級大虚(アジューカス)の能力を教えてくれた。
それがたまたま、日番谷が四番隊舎を出る直前だった。
全てはたまたまタイミングが良かっただけ。
けれど、それらの偶然に詞織が助けられたのもまた事実。
偶然に意思など介在しないが、もし介在するのならば、彼女を助けたのは間違いなく四席だろう。
詞織が石碑に触れ、口を開いた。