第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
「――喰らえ、『暁光』」
眩い朝陽のような炎が黒い巨鳥を呑み込んだ。
卍解は始解の五倍から十倍に能力が跳ね上がる。
それだけでなく、詞織は始解の時点で、すでに中級大虚(アジューカス)を圧倒していた。
幻影にさえ惑わされなければ、詞織が勝てない理由など存在しない。
「グァアァアア、ガガァァ……、ググ……、ウ……、アアァァァ……ッ‼︎」
耳障りな断末魔はいつまでも続かず。
五秒と満たない間に、虚は跡形もなく消えた。
炎が晴れ、炎の鳥が詞織の元へと戻る。
『暁光』と呼ばれた鳥は、詞織に頬をすり寄せると、大きな炎を上げて一振りの刀へと戻った。
「日生」
「……お見苦しいところをお見せしました」
そう言うと、感情の読めない紅黄色の瞳が、日番谷の後ろにいる少女に止まる。
黒い髪に紅黄色の瞳を持つ、詞織と似た面差しの幼い少女。
その少女の輪郭が、ぼやけ始めた。
「あ……」
詞織が小さく声を上げる。
少女を作り出した虚は詞織が討伐した。
影響力が失われれば、消えるのは道理である。
輪郭を失い始めた少女の前に、詞織が立つ。
やがて、彼女は何も言わず、少女の折れそうなほどに細い身体を抱きしめた。
その腕の中で、少女は初めて表情を変える。
驚いたように紅黄色の瞳を丸くし、そして嬉しそうに微笑んだ。
それを最後に、日生 詞織の闇として生み出された少女は、細かな光の粒子となって空へと消えたのだった――。
* * *