第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
「――《冴え渡る空》」
淡々と、まるで歌うようにそれは続く。
「《微かに降り注ぐ、静謐なる月の光よ。祝福をもたらす夜明けへ、永久に祈りを捧げよ……》」
霧のように立ち込めた水蒸気が震えた。
「卍解――『暁光(ぎょうこう)』」
その単語が、やけにはっきりと、日番谷の耳に残る。
瞬間――水蒸気が弾かれ吹き飛んだ。
髪を揺らすほどの熱気が、空気中の水分を呑み込む。
黒い髪を遊ばせる詞織の腕には、朝陽を凝縮したような炎の身体を持つ大きな鳥が乗っていた。
「これが……日生の卍解か……」
日番谷自身、日生 詞織の卍解を見るのは初めてだ。
朝陽のような……赤というよりは、金色に近い身体を持つ鳥。
日番谷の知るどんな鳥とも違うが、強いてあげるならば、鴇や鶴に似ていた。
先ほどとは打って変わって、凪いだ水面のような紅黄色の瞳が、巨鳥の虚を見据えている。
「おマエにわレは殺セヌ! わレにはおマエの闇が見えルゾ! おマエは無力! 無力ナリ! 今も昔モ変わらヌ! そコの動かヌ木偶(デク)のまマ! おマエは! 昔と何も変ワラぬ! 無力! 貧弱! これカラモ凡ユルものを奪ワレ続けルノダ‼︎」
虚の言葉に憤るように、詞織の腕に乗る鳥が炎の勢いを上げた。
「無力、貧弱……そうね」
しかし、少女は「だから、何?」と続ける。
「お前の言葉が真実だったとしても、わたしには――」
詞織が鳥の乗った腕を上げると、それに応じるように鳥が大きな翼をはためかせて飛び上がる。
「わたしには、助けてくれる仲間がいる。そして、隊長も。わたしはもう、何も怖くない」
そして、短い命令が下された。