第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
「朝焼けに祈れ! 『暁降』‼︎」
ほとんど悲鳴に近い勢いで叫ばれた解号。
炎を纏った二振りの剣が、無抵抗な少女を狙う。
「縛道の四、『這縄』!」
日番谷の指から縄状の霊子が伸び、詞織の腕を拘束した。
ゆっくりと振り返った紅黄色の瞳が、ようやく日番谷を映す。
「ひ……がや、たいちょ……」
頼りなく揺れる瞳に駆け寄り、日番谷は幻影であることを分かっていながら、幼い少女を背に庇った。
「何やってんだ⁉︎」
少年の怒声に、細く小さな肩がビクリと震える。
「な……で? だって、その子はわたしの弱さの象徴……この世に存在してはいけない、罪の証……」
弱かった過去の自分が、一人の青年を死に追いやった。
「だから、消し去らないと……一刻も早く、一瞬でも早く……っ! でないと、わたしは……!」
日番谷は手を振り上げた。
その動作に、詞織は固く目を閉じる。
ペチンッと、弱々しい音が響いた。
彼女の頬に触れただけと言っても過言ではない。
微かの痛みすら訪れなかったことに、詞織は目を瞬かせる。
「……俺の惚れた女は、こんなことすら乗り越えられないほど、弱い人間じゃねぇ。お前は、ここに何をしに来たんだ?」
ハッと彼女は息を呑む。
詞織の紅黄色の瞳に光が戻った。
「弱かった過去があるから、どこまでもひたむきに強さを求めるお前がいる。弱かったお前が、今のお前を形作っているんだ。だったら、切り捨てるんじゃなく、受け入れろ。過去に『負けるな』。お前なら、それができるはずだろ」
それに、と日番谷は続ける。
「それに言ったはずだ。力が足りないなら俺を呼べ。俺を頼れ。お前の力の及ばない部分は、俺が支える」
俺がお前を守ってやる。
その言葉だけは呑み込み、己の誓いとした。
強さを求める彼女には、不要な言葉だと思ったからだ。