第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
最早、詞織の敵は虚ではなく、目の前の少女だった。
三度、四度、詞織は斬魄刀を突き立て、切り刻むが、虚の言う通り、少女は消えることはなく。
ただ黙って、ただされるままに傷を負う。
しかし、少女の傷は立ち所に塞がってしまうのだ。
無抵抗な少女に、詞織の憎悪は募る。
まるで……否、昔の自分そのものだ。
何に対しても無気力で、為す術なく虐げられ、奪われ続けた自分自身。
怖れる、影。
「ちが、う……違う、違う、違う! わたしはもう、お前じゃない!」
消えろ、消えろ、消えろ!
詞織は再び高く斬魄刀を振り上げた。
「朝焼けに祈れ! 『暁降』‼︎」
炎を纏わせた双剣が少女の首を狙う。
それを止めるように、少年特有の少し高い声が響いた。
* * *
『夜枯』に着いた日番谷は、意識を集中させて詞織の霊圧を探ろうとする。
しかし、その必要はなかった。
『夜枯』からほど近い森の中に、ボゥッと炎が上がったのが見えたのだ。
それが、日生 詞織の持つ斬魄刀『暁降』の炎であると確信した。
日番谷は、炎を目印に森へ急ぐ。
やがて、耳につく笑い声が聞こえた。
同時に届く肉を刺す鈍い音は、明らかに戦闘とは違う音。
脳裏に嫌な光景が浮かび、日番谷はそれを振り払い、足を急がせる。
「日生!」
そこでは、詞織が幼い少女を一方的に攻撃していた。
何があったのか、何が起こっているのか。
それは分からない。
ただ、異常事態であることだけは理解できた。
虚を差し置いて幼い少女に刀を向ける。
それが異常でなくて何なのか。
少女が、虚の作り出した幻影であることはすぐに察した。
詞織の闇といえば、弱かった過去の自分。
それを刺激する為に生み出された、幻影。
だからこその、この目の前の光景だ。