第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
一分一秒でも早く彼女の元へ駆けつけようと、そればかりが先に立つ。
心に闇を抱えない人間などいない。
それは、死神とて同じことだ。
心の闇を具現化する虚など、たった一人で相手にできるはずがない。
よほど、心を強く保てる者でなければ。
「クソッ!」
頼む、生きていてくれ……!
祈ることしかできない現状に悪態を吐きながら、日番谷は空を強く蹴った。
* * *
『《怖れヨ――わレは内なる汝ヲ映セし、真実二して虚実の鏡》――……』
鋼の片翼が詞織の姿を映す。
瞬きをした次の瞬間には、詞織よりいくつか幼い少女が立っていた。
黒い髪を伸ばした、折れそうなほどに細い四肢を持つ少女だ。
少女の赤みの強い金色の瞳が、虚な色を宿して詞織を見つめる。
何の悪夢だ、これは……。
そんな思いは黒く塗り潰され。
同時に、詞織は少女を組み敷き、その小さな胸に斬魄刀を突き立てる。
「……っ、はぁ……っ、はぁ、はぁ……っ」
気がつけば、浅い呼吸を繰り返していた。
激しい動悸に目眩まで加わり、詞織はそれらを気力でやり過ごす。
現れたのは、幼い頃の自分。
この世に存在していてはならない、己の過去。
斬魄刀を突き刺したにも関わらず、幼い自分の影は消えない。
相も変わらず虚空を見つめ、痛みに顔をしかめることすらしなかった。
『ふハハハ……小娘ヨ……おマエが怖れルほどに、ソレは力を増す。おマエが怖れル限り、ソレは消え去ルことハない。ソノまま、幻影に力尽きヨ。絶望二心を打ち砕カレた瞬間、わレがおマエを喰らッテやる……! ふハハハ……!』
その言葉が詞織の耳に届くことはなく。