第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
「暁天光臨(ぎょうてんこうりん)――『暁雨(ぎょうう)』」
炎の矢が、空気を引き裂くように虚に降り注ぐ。
『グ、ぁ、アァア……ッ』
「これで終わりだと思わないで」
詞織は弓を真ん中で二つに割り、二振りの剣へと変形させた。
「暁天光臨――『払暁(ふつぎょう)』!」
払った紅黄金色の軌跡が炎となって虚を呑み込む。
呆気なく終わったことに、全く違和感がなかったわけではない。
それでも、これで終わりだと思い、詞織は刀を弓の形へ戻した。
そのとき――。
『ちょうシに乗ルなよ、小娘ガ……!』
フッと虚を吞み込んでいた炎が唐突にかき消える。
予想外ではあったが、詞織は遅れをとることなく弓を構え直した。
『わレの真のチカラ、見せてクレる!』
そう言い終わるや否や、虚の大きな翼が広げられる。
無残にも片翼となってしまった鋼の羽に、少女の姿が映った。
『《怖れヨ――わレは内なる汝ヲ映セし、真実二して虚実の鏡》――……』
瞬きをした次の瞬間、詞織の頭が真っ白になる。
そして、たった一つの感情が、少女の心を黒く塗り潰した。
* * *
「日番谷隊長! 十番隊の方が、目を……!」
ちょうど四番隊舎を出ようとして、四番隊の隊士が日番谷を呼び止めた。
最後まで聞く必要などない。
四席に守られた隊士の一人が目を覚ましたのだと分かり、日番谷は短く「案内しろ」と命じた。
彼らの病室へ急ぎ、扉を開ける。
「あまり長時間は話せません。できるだけ、手短に」
「分かった」
案内した隊士をその場に残し、日番谷は室内に入る。
並んだベッドの一つに近づくと、身体中を包帯で巻かれた男性の死神が、ノロノロと日番谷に視線を向けた。