第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
詞織は西流魂街の外れにある森へ来ていた。
近くには少女の育った八十地区『夜枯(よがらす)』がある。
己の弱さの象徴。
ぞわぞわと皮膚の下を這う不快感を振り切るように、彼女は腰に差した斬魄刀に触れた。
他の隊士は連れて来ていない。
四席を敗った相手だ。
並の隊士を連れて来たところで、足手まといにしかならない。
『ガ、あ、ァァ……が、ガ……ぃた、イ……傷が、疼ク……!』
虚の霊圧を感じるのと同時に、呻く声が耳に届く。
声の方向へ駆ければ、巨大な翼を持った鳥がうずくまっていた。
胴体は黒く、翼は鋼。
太い四肢、身の丈は周囲の木々より一回り小さい。
よく見れば、鋼色の片翼の先を失っている。
あの様子では、飛ぶことは難しいだろう。
「お前が、わたしの仲間を殺した虚(ホロウ)ね」
詞織の問いに、虚は緩慢な動作で振り返った。
『シニがみ、か……』
「彼女の仇を取りに来た。仲間を手にかけたお前を、わたしは赦さない」
『ゆルさなイのはわレの方だ! わレの翼ヲ落とシた報い、おマエにも背負わセてくれル……!』
迫り来る巨腕は、傷を負っているとは思えないほどの速さ。
詞織はその攻撃を高く跳躍して躱した。
そして、自分の腰に差している斬魄刀を抜き放ち、厳かな声音で解号を紡ぐ。
「朝焼けに祈れ――『暁降(あかときくだち)』」
詞織の声に反応して、刀が紅蓮の炎を纏った。
炎がフッと音を立てて消えると、赤みの強い黄金色の弓が現れる。
それを構えると、弓と同色の光を放つ矢が輝いた。
彼女はその矢を番え、弦を引き絞る。
暁降は炎熱系に分類される斬魄刀だ。
解放と同時に紅金色の弓となる。
弓の弦と矢は詞織の霊力が形となったものだ。