第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
「だったら、次は誰が行くんですか? 虚は深手を負って、しばらくは流魂街へ出てこない」
けれど、傷が癒えれば再び流魂街の住民たちを襲い始めるだろう。
能力が不明である不安要素はかなり大きいが、深手を負って動けない今が好機とも言えた。
「なら、俺と松本で……」
「どうしてですか? わたしたち死神は替えが利きます。実力のある死神は他にもいる。でも、隊長や副隊長になれる死神は限られているんですよ?」
能力が不明だという理由で隊長・副隊長格の二人が遅れを取ることはないだろうが、不安要素のある敵と分かって、わざわざ前線に出ることはない。
言いたいことは分かる。
だが、部下を殺した虚を赦せない気持ちは、日番谷とて同じことだ。
「わたしが行きます。四席が斃(たお)れた以上、わたしが出るのは当然のこと。わたしは四席と違って卍解(ばんかい)を習得しています。まだ使いこなせているとは言いませんが、わたしは四席より強い」
斬魄刀の第二能力解放である卍解を使えるのと使えないのとでは、実力に大きな差がある。
「日番谷隊長たちが行く必要はありません。わたしが彼女の仇を取ります」
わたしに行かせて下さい。
最善の策と最適解は別だ。
日番谷が行けば、確実に虚を倒すことができるだろう。
しかし、それは最適解ではない。
詞織の言う通り、死神はたくさんいるが、隊長や副隊長は誰でもなれるわけではない。
隊長である自分が、そう易々と前線に出ることはできないのだ。
詞織のもっともな言い分に返す言葉もなく、日番谷は眉をグッと寄せ、翡翠の瞳で詞織を見据えた。
「分かった……お前に任せる。だが……」
絶対に死ぬな。
無茶をするな。
敵わないと思ったらすぐに戻れ。
そして――……。
「必ず――帰って来い」
詞織は返事をすることなく、ただ静かに頷いた。
* * *