第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
自分の中に芽生えた感情。
それが何なのか、本当は日番谷にも分かっていた。
誤魔化すことなどできるはずもない。
詞織の手を握る己の手に力を込める。
まだ――言わない。
せめて、もう少し。
もう少しだけ背が伸びて、彼女をすっぽりと包み込めるほど成長できてから。
それが、日番谷にとっての意地だった。
気づいてしまえば、世界は変わる。
自分の後ろをついてくる詞織の足音さえ、日番谷には心地良く聞こえた。
* * *
相手に対する認識が変わると、これほどまでに世界が違って見えるものか。
詞織が死神になったきっかけを聞いた日から――自分の中にある詞織への感情を認識した日から――数日が経った。
日々の書類仕事に追われながらも気がつけば彼女のことを考えている。
詞織の姿を見かければ胸が弾んだ。
声を聞けば気分が上昇し、キラキラとした笑顔を見れば甘やかしたくなり、悔しそうな顔を見れば抱きしめたくなり――……。
――詞織の歌を聴けば、心が癒された。
バタバタッと、日番谷は四番隊舎の廊下を駆け、扉を開けた。
そこには、四番隊 第七席の山田 花太郎が沈痛な面持ちで顔を伏せ、詞織が呆然と立ち尽くしている。
どこか薬品の匂いが充満している室内に踏み入れば、部屋の中央に一人の少女が横たわり、白い布を被せられていた。
誰なのか分かっていながら、日番谷は慎重に布を捲る。
そこで眠っているのは、十番隊の第四席に身を置く少女だ。