第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
「……――これが、わたしが死神になったきっかけです」
詞織の話は、決して短くはなかった。
けれど、長くも感じられなかった。
「わたしは嫌いです……昔のわたしが。力があるのに、力のないヤツらに奪われ、虐げられ、詰(なじ)られた……弱いわたし。消してしまいたい……無かったことにしたい。虚を前に震えて、立ち竦んで、動けなかった……わたしが強ければ、きっと、彼が死ぬこともなかったでしょう」
日番谷は、彼女に掛ける言葉が見つからない。
先ほども述べた通り、死神が『浅打』を己の斬魄刀として形作るには、寝食を共にしつつ斬魄刀本体と対話し、同調する必要がある。
決して簡単なことではないし、ましてや一瞬で終えられるようなものでもない。
ぐるぐると纏まらない思考に、日番谷の眉間のシワが深まる。
その隣で、詞織は己の斬魄刀を撫でた。
大切そうに、慈しむように。
――そいつの、斬魄刀だからか?
いわば、形見でもある少女の刀。
彼女の存在や価値観を定めた青年。
日生 詞織という個人を形成した――自分ではない、男。
妙な胸のざわつきを感じたのは、その男に嫉妬したからだろうか。
自分以外の人間が、少女を気にかけていた。
そのことが、気に入らなかった。
まだ名前のつかない感情を持て余しながら、日番谷は立ち上がる。
「……もう遅い。送って行く」
「いえ、一人で帰れます」
「いいから、黙って送られてろ」
まだ座ったままで、低い位置にある少女の頭をかき混ぜる。
サラサラとした黒髪が乱れ、詞織は頬を膨らませた。