第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
「この子、対話するとすぐにせがむんです。歌が聴きたいって。歌うことは好きですけど、褒められるほど上手いとは思ってませんが」
そんなことはない、と言おうとして、無駄だと止めた。
詞織は褒められることに慣れていないのだ。
どれだけ否定したところで聞かないだろう。
「俺は……嫌いじゃなかった」
素直に「好きだ」と言えばいいのに、それが気恥ずかしく。
嫌いじゃないなんて、言葉を選んでしまう。
けれど、その真意はしっかり伝わったようで。
詞織は再び目を丸くし、顔を伏せた。
表情が長い髪に隠れて見えなくなるが、耳が微かに赤くなっている。
こういう些細な仕草が、日番谷は好きだった。
そこまで考えて、己の心の動きに驚く。
――好き?
自分は、この少女に好意を持っているのか?
気がついてみれば、詞織のことをもっと知りたいと。
そんな欲求が湧いてくる。
「……お前は、どうして死神になろうと思ったんだ?」
唐突な質問だったと思う。
しかし、顔を上げた少女はすかさず質問を返した。
「日番谷隊長はどうしてですか?」
紅黄色をしたガラス玉の瞳を向けられ、日番谷は思い出す。
日番谷は元々強い霊力を持ち、周囲に悪い影響を与えていた。
そのことを指摘し、死神になることを薦めてくれたのが、当時すでに死神となっていた松本 乱菊である。
松本と出会ったのは全くの偶然だったが、もし出会わなければ、彼女が言った通り、家族である祖母を殺してしまっていただろう。
そうでしたか、と詞織は短く相槌を打つ。
「お前は?」
もう一度問えば、詞織は己の斬魄刀を一撫でした。
「わたしの斬魄刀――真央霊術院でもらったものではないんです」
「……は?」
一瞬、何を言ったのか分からなかった。
斬魄刀は基本、真央霊術院で入学と同時に与えられる。
それは全ての斬魄刀の基礎ともいえる『浅打(あさうち)』と呼ばれる刀で、この『浅打』と寝食を共にし、対話と同調をすることによって、刀は死神の魂を形どり、死神にとっての唯一無二の刀へとなるのだ。
「わたしはこの子を、ある死神から奪いました」
ゆっくりと、詞織は語り始めた。