第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
澄んだ歌声と悲しげな歌詞に、胸が切なく震える。
その声には聞き覚えがあった。
辿り着いた十番隊舎の道場には、やはり、想像した通りの黒髪の少女の姿が。
正座した膝の上に斬魄刀を置き、こちらには背を向けているが、紅金色の瞳が閉じられていることは容易に想像できる。
凛と張り詰めた空気を揺らす歌声に、日番谷は言葉を紡ぐことができなかった。
息をすることすら忘れて固まっていれば、気配を感じたらしい少女が振り返る。
「……日番谷隊長?」
「あ、あぁ……悪い、邪魔したか」
振り返った少女――詞織に、どうにか声を絞り出せば、彼女は「いえ」と先ほどの歌声とは違う無機質な声で言葉を紡いだ。
詞織の膝の上には斬魄刀――死神の魂を基として形作られた刀――が置かれている。
「鍛錬中か?」
隣に腰を下ろせば、少女は小さく頷いた。
「はい。この子と対話をしていて……少し休憩していました」
斬魄刀との対話は、死神の精神世界で行われる。
当然、集中力を必要とするものだ。
もう遅いから帰れ。
そう言わなければいけないと思いつつも、二人きりである状況を、どこか惜しむような気持ちがあった。
「歌……上手いんだな」
まだ、彼女の紡いだ旋律が耳に残っていた。
褒めたつもりだったが、詞織は目を丸くして、「そうでしょうか?」と首を傾げる。