第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
「……また負けた」
「え?」
ポツリと呟いた詞織の言葉を拾えなかった花太郎が聞き返す。
しかし、彼女は答えることなく、顔を背けた。
「……斑目に負けたことを気にしているのか?」
しっかりと聞き取った日番谷が尋ねれば、詞織はゆるゆると首を振って否定する。
「斑目三席には負けてないです。確かに、何度も打ちのめされましたけど。わたしは負けたなんて思ってません。わたしが負けたのは、日番谷隊長です」
「俺に……?」
いったい何の話だ。
そう聞くより早く、詞織は小さな唇を開いて続けた。
「わたしにとっての『敗北』は、『負けを認めること』です。どれだけ叩かれて、殴られて、蹴られて、手も足も出なくても……気持ちを強く保って、『自分を失うことがなければ』負けたことにはなりません」
……そう、思ってます。
小さな声で、詞織はつけ加える。
「でも、日番谷隊長はダメです。いつもわたしを『負かせてくる』。いつもわたしの心を打ち砕いてくる。わたしは、日番谷隊長には勝てない」
悔しそうに、唇を尖らせる詞織に、日番谷は口元を隠し、顔を背けた。
ヤバイ、顔がにやけそうだ。
どうして?
その疑問は浮かばなかった。
ただ、詞織の中で自分が『特別』な枠にいることが嬉しかった。
その意味も分からないまま、彼女は「もういい」と花太郎の手を退かす。