第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
「日生、お前の報告書にも記入漏れがあった。訂正箇所はないから、このまま加筆しろ」
「……申し訳ありません」
肩で浅く息をする詞織に近づき、目線を合わせた。
白い肌にも無数の裂傷が走っている。
「気は済んだだろ。戻るぞ」
「……それは……命令ですか?」
日番谷は沈黙した。
正直に言えば、命令しているつもりでの言葉ではない。
結局、「そうではないが」と続けるより早く詞織が頷く。
「……相変わらず優しいですね、隊長は……」
言葉のわりに悔しそうな表情をし、詞織はフラッと立ち上がった。
「斑目三席、勝負は一時お預けです。また来ますから」
「いつでも来いよ。返り討ちにしてやる」
「……書類の提出期日、ちゃんと守って下さいね」
「……嫌なこと言い残して行くなよ……」
顔をしかめる斑目に満足したのか、詞織は十一番隊舎の道場を出た。
沈黙が続く。
詞織は痛む足を引きずり、打たれた肩を押さえていた。
本当なら負ぶってやりたいところだが、詞織との間にある二十センチの身長差がそれを阻んいる。
低い身長はコンプレックスだが、それ以上に悔しかった。
* * *
ちょうど十一番隊の隊舎を出ようとしたところで、二人はひょろりとした青年と出くわす。
「あ、日番谷隊長」
黒い髪に大きなタレ目……どこかのんびりとした口調。
四番隊第七席の山田 花太郎だ。
「山田か。どうした、こんなところで」
「はい。何でも、喧嘩をして負傷したので、治療をして欲しいと呼ばれました」
たったそれだけのことで呼ばれたのか。
護廷十三隊の四番隊は他の実働部隊とは違い、救護や補給を専門とし、治療用の鬼道である「回道」を極めた者が所属する。
その為、他の隊と比べて所属隊員の戦闘能力はあまり高くなく、特に十一番隊の隊士たちからは顎で使われていると耳にしたことがあった。