第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
三度の飯よりも、甘い物よりも「鍛錬」や「修行」を優先させる。
己の身体の限界を超えて。
それが、日番谷にとっての心配の種でもあるのだが。
立ち上がった詞織が斑目と刃を交える。
平時に斬魄刀の使用は禁止だ。使っているのは木刀だろう。
木刀の刃が交じり合う特有の音、刃が肌や服を掠る音、足が床を蹴り上げる音。
それに被さるように、斑目の楽しそうな声や、詞織の荒い呼吸が耳に届いた。
同じ三席でも、体格や戦闘経験により差が出るのは仕方がないことだ。
しかも、相手は護廷十三隊でも戦闘を好む戦闘狂の集団のトップスリー。
詞織は決して弱くはない。
むしろ、十番隊の第三席に恥じぬ実力を持っているし、十一番隊で詞織に勝てる隊士など、三席の斑目と十一番隊隊長の更木(ざらき) 剣八くらいだろう。
人垣の向こうで、詞織が再び吹き飛ばされる。
やはり、斬魄刀を使わない純粋な剣術で勝るのは厳しいようだ。
頃合いだろうと考え、日番谷は己の霊圧を少し上げ、その存在を誇張した。
それに気づいた隊士たちが振り返り、息を呑む。
日番谷隊長、と誰かが上ずった声を上げた。
「日生を連れて帰る」
その言葉に、死覇装を着た隊士たちは、まるで黒い波を割るように道を開ける。
かなり激しくやり合ったのか、二人とも切り傷や擦り傷でボロボロだった。
木刀を片手に持って立つ斑目に対し、木刀を手放さずとも、道場の壁に背を預けて座る詞織。
悠然と進み出た少年に、二人の視線が集まる。
「日番谷隊長……どうしたんすか?」
「どうしたもこうしたもねぇ。さっきお前が提出した書類、誤字脱字が激しくて報告書の意味を為(な)してねぇだろうが。再提出の期限は明日。やり直しだ」
「ま、マジかよ……」
日番谷の厳しい言葉に、斑目が頭を抱えた。
次いで、彼は翡翠の瞳を詞織に向ける。