第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
「それでは、失礼します。松本副隊長、サボらずにちゃんと書類を処理して下さいね」
乱菊の呼び方が「さん付け」から副隊長呼びに戻っている。
丁寧に一礼をして、詞織がドアを閉めた。
残った静寂の中で、松本が気の抜けたため息を吐く。
そこへ、再び扉が開かれ、詞織が小さく顔を覗かせた。
「どうした?」
忘れ物か、と声を掛ければ、少女は日番谷の机の上に小さくラッピングされたものを、ちょこんと置く。
「甘納豆です。お好きだと聞いたので」
「あ、あぁ……ありがとう」
「いえ……お世話になっていますから」
サッと俯いた詞織の耳は、礼を言われたことに気恥しさを覚えたのか、微かに赤く染まっていた。
「詞織、アタシのは?」
「……じゃあ、これを」
松本の机にコロコロと色とりどりの金平糖が転がる。
「……これ……もしかして……」
「常備している金平糖です」
日番谷とのあまりの差に、松本はあからさまに落胆して唇を尖らせた。
「ちょっと、隊長に贔屓しすぎじゃない?」
「そうですか?」
「そうよ。わざわざ差し入れなんて」
「もういいから。お前は黙って書類を片づけろ」
「はぁ〜い……」
やる気のない副官を叱咤すると、詞織も邪魔にならないように、とドアに手を掛ける。
「『乱菊さん』」
「ん?」
松本が顔を上げると、詞織は微かに笑みを浮かべた。
「餡蜜、今度連れて行って下さいね」
きゅぅぅん、という音が聞こえた気がする。
その笑顔の破壊力は凄まじく、日番谷すら胸を切なく締めつけられた。
顔に集まる熱を、頭を振ることでどうにかやり過ごす。
パタンと今度こそドアが閉まった。
「見ました、隊長! 何ですか、あの可愛い生き物!」
「うるせぇ! さっさと書類を終わらせろ!」
* * *