第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
「ねぇ、詞織。書類仕事なんて後回しにして、餡蜜、食べに行かない?」
「松本ッ‼」
「餡蜜‼」
机を叩いて日番谷が叱責するように名前を呼ぶのと、詞織が喜びに弾んだ声を上げるのは、ほぼ同時だった。
松本の提案に、人形のようだった少女のガラス玉の瞳が光を帯びる。
そうだ。この詞織という少女は、無類の甘い物好きなのだ。
甘い物の話を振れば途端に饒舌になり……この笑顔。
キラキラと瞳を輝かせる姿は外見年齢相応の少女で、ほんの少し前とは別人だ。
このギャップに胸をときめかせる隊士(男女問わず)は多いらしく、少女自身も十番隊のマスコット化している。
知らぬは本人ばかりなり……であるが。
「餡蜜、食べたい!」
「『乱菊さん大好き!』」
「乱菊さん大好き!」
何のやり取りだ。
自分で言わせておいて満足する己の副官に、日番谷は呆れて物も言えない。
「よしよし。では、乱菊お姉さんが奢ってあげよう!」
「わーい!」
もう、勝手にやってろ。
「日生、報告書」
松本が印鑑を押しただろう報告書を要求すれば、詞織は再び感情のこもらない声で「はい」と返事をした。
ててて…という効果音が似合いそうな小走りに、どこか微笑ましい気持ちになる。
それを受け取ったところで、ドスドスと無粋な足音を立てながら、新たな霊圧が近づいてきた。