第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
「仕事ですから。時間を掛けて、隊長のお手を煩わせることもありませんし」
気を遣われることに慣れていない反応。
そんな少女を、日番谷はこっそり気にかけていた。
彼女は、不器用ながらに相手を気遣うことはできるが、自分のことには無頓着だ。
前に、人の仕事を肩代わりしすぎて、過労で倒れたこともあった。
そのときに、日番谷は詞織に聞いた。
なぜ、誰かに頼らなかったのか。
自分の手に負えないことは分かっていたはずだ、と。
彼女の答えは、あまりに不器用すぎるものだった。
――「自分で勝手に背負ったことだから、自分でやり切らなければいけないと思いました。わたしの力不足です」
申し訳ありません、とどことなく悔しそうに目を伏せた少女に、日番谷はやるせない気持ちを抱いた。
当然、楽をしようとして彼女に仕事を押しつけた隊士には、一ヶ月間、罰として隊舎内の掃除をさせた。
そして、詞織には、手に負えないと感じたら、すぐに自分を呼ぶように命じたのだった。
「松本副隊長」
副隊長を呼ぶ詞織の声に、日番谷の意識が浮上する。
「もぅ、詞織ったら、他人行儀! いつもみたいに『乱菊さん』って呼んでよ!」
「……職務中ですので。それより、報告書に印鑑をお願いします」
「もう……分かったわよ。…………ん、ほら。これでいいでしょ」
サッと目を通し、乱菊が書類を手渡す。
受け取った詞織が印鑑を確認し、「ありがとうございます」と感情の籠らない声で礼を口にした。
このまま彼女が書類を持って日番谷へ提出……と思われたところで、乱菊はニヤリと笑う。