第6章 たとえば、君を守る倖せ【BLEACH/日番谷冬獅郎】
松本とのつき合いは長い。
元々、死神になるきっかけを与えたのも彼女だった。
しかし、死神の養成機関である『真央霊術院(しんおうれいじゅついん)』を首席で卒業し、トントン拍子に三席まで登りつめたときも、松本のサボり癖には当時の隊長も頭を悩ませており、よく手伝っていたものだ。
そんなことを思い出しながら冷めたお茶を飲み干すと、慣れた霊圧が執務室へ近づいてきた。
「お疲れさまです。報告書を纏めて来ました」
現れたのは、黒く長い髪を伸ばした、赤みの強い金色の瞳を持つ、十五歳弱ほどの少女だ。
「あぁ、日生か。早かったな」
日生(ひなせ) 詞織。
幼いながらも十番隊第三席に身をおく少女で、十番隊の隊士の席官以下では唯一、斬魄刀の第二能力解放である『卍解』を習得している。
クールなようでぼんやりとしており、それでいながら、力への強いこだわりを持つ、どこか掴みどころのない性格だ。
しかし、それも仕方がないのかもしれない。
彼女の出身は、西流魂街八十地区『夜枯(よがらす)』。
流魂街は、東西南北にそれぞれ一から八十までの地区を持ち、数字が大きくなるにつれて治安も悪くなる。
八十地区ともなれば、窃盗や殺しなどが日常茶飯事で行われる無法地帯だ。
そんなところに身を置けば、精神のどこかに歪つな部分を抱えていたとしても、不思議ではないだろう。
日番谷が労いの言葉を掛ければ、詞織は人形のような無機質な瞳を瞬かせて、「いえ」と素っ気なく返した。