第5章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】完
「好きです、黄瀬くんのことが。わたしの中の汚泥すら抱きしめて、好きだと言ってくれた……あなたのことが」
あなたが傍にいて、わたしを想ってくれるなら、わたしは何も怖くない。
「だから……わたしも、あなたのことを知りたいと思います。あなたの強さも、あなたの弱さも。わたしはあなたの全てを受け止めたい」
きっと、理解することなんてできないでしょう。
わたしとあなたは、違う人間だから。
けれど、理解しようとすることはできる。
そして、理解しようとするその心こそが、大切だと思うから。
「……黄瀬くん?」
いつまでも答えない彼の名を呼び、詞織は目を丸くする。
彼女の言葉を理解するのには、時間が掛かった。
それでも、ようやく詞織の言葉を呑み込んで。
「…………ほ……とに……?」
声が、震えた。
気がつけば、熱くなった目尻から、一筋の涙が頬を伝う。
それを隠すように、黄瀬は彼女を抱きしめた。
「ホントに? 詞織っち……ホントに、オレのことが……好き?」
夢じゃないことを確かめたくて聞き返せば、詞織は彼の背中に腕を回す。
「本当だよ。わたしは、あなたのことが好き。黄瀬くんのことが、大好き」
ギュッと胸が苦しくなる。
呼吸すらできなくなりそうだ。
彼女が『好き』と繰り返すたびに、胸の奥がジンと甘い痛みを訴える。
「好きだ……キミのことが……もう、キミがいないと生きていけない……」
詞織の頬に触れると、ビクリと詞織が身体を震わせた。
その反応が可愛くて、心の中で小さく笑い、黄瀬は顔を寄せる。
彼女はわずかに身を引いた。
けれど、この状況で我慢などできるわけもない。
いや、我慢はしているのだ。
本当は、力任せに抱きしめて、押し倒して、愛を囁きたい。
それらを全て呑み込んで、彼は詞織の長い黒髪を耳にかけ、その柔らかな唇に口づけた。
甘く痺れるような快感、彼女に触れているという優越感に満たされ、黄瀬は角度を変え、口づけを深くする。