第5章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】完
「好きだ……好き……好きっス、詞織っち……詞織、詞織……」
「ん……、ま……って、き、せく……」
詞織は背中に回していた手で黄瀬の服を掴み、足を震わせて懸命に縋っていた。
ようやく彼女を解放すれば、彼女はコテンと黄瀬に身体を預ける。
その小さな細い身体を、彼はもう一度抱きしめた。
「ねぇ……詞織っち。知りたいなら教えてあげるっスよ。もっともっと、オレのこと。オレがどれだけ、詞織っちに夢中なのか」
「……そ、それは……もう、充分……だから……」
充分?
そんなはずはないだろう。
まだ全然足りない。
まだ、何も伝えていないも同然だ。
「オレの全部、詞織っちにあげる。だから、詞織っちの全部をオレにちょうだい? オレの全てを懸けて、一生愛するから」
そう耳に低く囁くと、彼女は少し怯えたように深海の瞳を震わせた。
けれど、詞織は顔を真っ赤にして、コクンと小さく頷く。
静かな夜の中。
バスケのコートに二人分の呼吸が響く。
黄瀬には、それだけが全てだった。
【たとえば、君を知る倖せ 了】