第5章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】完
ゲームが終わった頃には、夜の帳が完全に下り、照明がストリートバスケのコートを照らしていた。
「お疲れっス、詞織っち」
そう声を掛け、黄瀬は自販機で買ったオレンジジュースを、ベンチに腰を掛けた詞織に差し出す。
ここしばらく彼女を見てきて、フルーツを使った飲み物が好きなのだろうと察したのだ。
「ありがとう、黄瀬くん」
受け取った彼女の隣に腰を下ろし、黄瀬はミネラルウォーターの蓋を開けて口をつける。
「ごめんね。わたしが相手じゃ、つまらなかったでしょう?」
「そんなことないっスよ! 全然! オレ、途中から結構マジでやってたし!」
結果は8対10。
キセキの世代に名を連ねた選手として、素人相手ならば得点を許すはずがない。
詞織は本当に手強かった。
ゲームが進めば進むほど、黄瀬の動きを『模倣』し、どんどん強くなるのだ。
「あぁ……楽しかったなぁ。負けちゃったのは悔しいけど……でも、いつもとは違う、清々しい気持ち。黄瀬くんが一緒だからかな?」
少しだけ悲しそうに微笑む詞織の頬に、黄瀬は優しく触れる。
夜風に晒されて冷たい頬は、すべすべとして柔らかかった。
「そういう言い方されると、勘違いするっスよ?」
手を離して、黄瀬は立ち上がる。
その腕を、詞織が掴んだ。
「ま、待って!」
振り返れば、詞織が頼りなさげに瞳を揺らしていた。