第5章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】完
「詞織っち!」
肩で息をしながら、黄瀬はいつもの駅前で待つ詞織のもとへ駆けた。
「黄瀬くん。そんなに急がなくても……」
「だって! 早く詞織っちに会いたかったから!」
息を整えながら笑えば、彼女は恥ずかしそうに顔を伏せる。
今日も安定の可愛さだ。
いや、彼女は日に日に可愛くなる。
もう、これ以上好きになれないと思うのに、会うたびにその気持ちは増していった。
「黄瀬くん。実は、今日は行きたい場所があって……つき合ってもらえませんか?」
「喜んで!」
まだ場所も聞いていないのに。
そんなことは関係ない。
詞織が行きたいなら、たとえ火の中でも水の中でも連れて行く。
黄瀬の清々しいほどの返事に、詞織は苦笑しながら、「お願いします」と笑った。
昨日の今日で、彼女は大丈夫かと思ったが、心配なさそうだ。
詞織がどこへ行きたいのかとついて行けば、辿り着いたのは近くの公園に設置されたバスケットコートだった。
「バスケっスか?」
「うん。その……せっかくだから、黄瀬くんの好きなこと、教えてほしくて……あ、でも……部活の後だし、疲れてるよね?」
そう言って顔を真っ赤にする詞織に、胸が苦しくなる。
あぁ、オレは鴇坂 詞織が好きだ。
もうどうしようもないくらいに。
きっと、彼女以上に好きになれる人間なんていない。
「オレ、今……スッゲー幸せっス!」
「え……? あ、えっと……」
自分は今、情けないくらいに真っ赤な顔をしているだろう。
けれど、こんな顔を見せるのは詞織だけだし、こんな顔になるのも詞織だけだ。
誰かが忘れたのか、ゴールポストの下にはバスケットボールが転がっている。