第5章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】完
「アンタたち、黄瀬のことが好きなんじゃないの? アンタたちにとっての『好き』って、いったい何? そうやって、自分の気持ちを自分勝手に押しつけることなの?」
グッと女たちのは言葉を詰まらせて黙った。
そこへ紗良は畳み掛ける。
「詭弁だってことは分かる。でも、どれだけ騒いだところで、黄瀬の気持ちはアンタたちに向かない。だったら、笑って見送るぐらいしなさいよ。これ以上、醜い部分を曝け出して、黄瀬をガッカリさせたくないならね」
女たちは何かを言おうとして、けれど何も言わなかった。
それくらい、紗良の言葉と気迫には力があったのだ。
紗良は黄瀬に近づき、小さな声で耳打ちする。
「行けば? 待ってるんでしょ」
詞織が、と続く部分は口にしない。
それはきっと配慮だろう。
もし、ファンたちの耳に入れば、彼女が標的にされるかもしれないと。
「あ、ど、どーもっス」
「別に。あの子を待たせたくないの」
早くして、と促す紗良に、黄瀬は走り出した。
その長身の背中を見送るのが、紗良やファンたち以外に、もう一人いたことには気づかず。
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