第5章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】完
翌日の、部活を終えた放課後。
何度目になるのか、黄瀬は校門で待ち伏せしたファンから抜け出せずにいた。
早く詞織に会いたいのに。
こんなことで、彼女と過ごす時間を減らしたくない。
「オレ、好きな子ができたんスよ。だから、もうキミたちとは遊べないんス」
正直に言えば、当然ながら、女たちは悲鳴を上げる。
その声に、黄瀬は耳を塞ぎたくなった。
何それ⁉︎
どこの誰なの⁉︎
そんなのイヤ!
信じられない!
自分勝手な言い分が溢れて止まらない。
確かに、好きな子ができたからファンサービスができないという言い分は勝手だ。
けれど、自分とて人間である。
たった一人の子を大切にしたいと思うことだってある。
「お願い、リョータ! その子とは別れてよ!」
「あたし、リョータがいないと生きていけない!」
そんなことを言われても困る。
どうしようか。
このまま振り切ってしまうか?
そこまで考えたところで、「ジャマ」と誰かが言った。
声の主を振り返れば、ウェーブのかかった茶色の髪を風になびかせ、勝気な瞳を向けてくる少女が立っている。
「更科サン……」
名を呼べば、彼女はフンと鼻を鳴らした。
「ギャンギャン騒いで……未練たらしく縋る女ほど、みっともないものはないわね。少しは自分のことを見てみたら?」
少女の言葉に、女たちの怒りが紗良に向く。
何さまのつもりだ。
関係ないくせに口を挟むな。
さっきまで、肩を震わせて泣いていた姿は何だったのか。
言い過ぎだと止めようとしたが、紗良は罵詈雑言に怯むことなく、女たちに冷ややかな視線を向ける。