• テキストサイズ

たとえば、キミを愛する倖せ【短・中編集】

第1章 たとえば、君に名を呼ばれる倖せ【名探偵コナン/安室 透】



 ――翌日。


 詞織のことを調べるのは部下たちに任せて、安室は愛車であるRX‐7から米花音楽大学を見張っていた。

 今日は、ポアロの仕事は休み。
 だからと言って、休暇を満喫する時間などないが。

 それでも、『安室 透』として。
 そして、『バーボン』として。
 さらに、『降谷 零』として。

 彼女と会う必要があった。

 程なくして、校門から詞織の姿が見える。
 黒く長い髪を靡かせる彼女は、帰宅する生徒の中でも一際目を引いた。
 友人と帰宅する詞織をゆっくりとしたスピードで、見つからないように追いかける。

 やがて、一緒に帰っていた友人と別れたところを見計らい、安室はアクセルを踏み込んだ。
 歩いている詞織の横に自動車をつけ、助手席の窓を開けて呼びかける。

「詞織さん。今、お帰りですか?」

 名前を呼ばれて足を止めた彼女に、できるだけ警戒されないように微笑んだ。

「奇遇ですね。良かったら、家まで送りましょうか?」


 ――少し、話したいこともあるので。


 そうつけ加えると、詞織は琥珀色の瞳に真剣な色を宿す。

「……分かりました」

 どこか震えた声音で彼女はそう言うと、ベルモットとは違い、躊躇いがちに助手席のドアを開けて乗り込んだ。
 やや緊張した動作でシートベルトを締める詞織を確認して、安室は自動車を発進させる。

「では、道案内をお願いします」

 そう言って、安室は詞織が指示した方面へ自動車を走らせた。

 ――沈黙が続く。

 その沈黙を、安室は意図的に破った。

「どうして、僕の誘いを受けたんですか?」

 昨日会ったばかりの男の自動車に女性が乗り込むなど、警戒心がないと責められても文句は言えないだろう。

「話がしたいと、安室さんが言ったので」
/ 196ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp