第4章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】②
正直、本当に怒っていた。
自分を傷つける彼女にも。
詞織を傷つけてきた周囲の人間にも。
彼女をここまで追い詰めた詞織の家族にも。
「……どうして……黄瀬さんが怒るんですか?」
「詞織っちのことが好きだから」
「好き? どうして? わたしがどれだけ身勝手な人間か分かりましたよね? わたしがどれだけ醜い人間か分かりましたよね? どれだけ惨めで卑屈な人間か分かりましたよね? それなのに、まだそんなことが言えるの?」
「言えるどころか、ますます好きになったっス」
黄瀬の表情は、自然と笑っていた。
彼女の言葉の一つ一つを噛みしめて。
黄瀬の心は震えていた。
彼女の弱さが、愛しくてたまらなかった。
助けられるなら、自分が助けたい。
彼女の心に寄り添って、めいいっぱい愛したい。
その弱さを包み込んで、隣で笑ってほしい。
訳が分からないという顔をする詞織を解放し、黄瀬は彼女の頬に、今度は優しく触れる。
「言いたいことは、終わったっスか?」
幼い子どもに言い聞かせるように尋ねる。
「もう、何を言えば諦めてもらえるの分からなくなったところです」
さっきから敬語とタメが混ざっている。
口調が迷子になってしまっているところが、また可愛かった。
「オレが詞織っちを諦めるなんて、あり得ないっスよ。だから、詞織っちの方が諦めた方がいいっス」
「どうして、幻滅しないの? あんなにヒドイこと言ったのに」
「言ったっしょ? 詞織っちが好きだって。良いところも悪いところも、全部ひっくるめて詞織っちが好きなんスよ」
「……趣味が、悪いんですね」
「何で? 詞織っちはカワイっスよ。誰よりも優しくて、勇気があって、強くて、でも弱くて。詞織っちが不安なら、オレがいくらでも言うっス。詞織っちはカワイイ。オレ、詞織っちが好き。大好き」
黄瀬はもう一度詞織を抱きしめる。