第4章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】②
「…………どうして?」
彼から逃れるように、詞織は俯いた。
からからに乾いた喉から、彼女は声を絞り出す。
「黄瀬さんは、わたしを好きだと言ってくれましたね。だから、わざわざ駆けつけてくれたんですか? 紗良に聞いて?」
できるだけ冷淡に、できるだけ感情のこもらない声で続ける。
「黄瀬さんは有名な方ですよね。それなのに、わたしはあなたを知らなかった。だから、珍しく思えただけじゃないですか? それを好意と勘違いしているだけじゃないですか?」
「それ、本気で言ってるんスか?」
押し殺した低い声に、身体が震えそうになる。
それを心の中で叱咤して、どうにか恐怖をねじ伏せた。
「確か、わたしが人を助けている現場に偶然居合わせたんでしたね? 黄瀬さんの目に、わたしはどう映りましたか? カッコよく見えた? 正義の味方みたいだった?」
彼が何かを答えようと口を開くが、それより早く畳みかける。
「もしそうなら、お馬鹿さんですね。どこの世界に、何の見返りもなく危険に飛び込む人間がいると思いますか? そんなの、空想の世界のヒーローだけ。現実にいるわけないじゃない」
突き放すように、詞織は言葉を紡ぐ。
あえて、乱暴な言葉で続けた。