第4章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】②
歌いながら、思い出すのは一人。
金色の髪に琥珀の瞳を持つ彼。
自分から会えないと言っておきながら、会いたいと思ってしまう身勝手さに嫌気がさす。
もう、頃合いだ。
もう会わない方がいい。
これ以上、彼と会ってしまったら、引き返せなくなる。
そのとき、ガタッと旧図書館の扉が開く音がした。
快音だろうか。
だが、兄は入学してすぐに生徒会に入って、すでに会長を押しのけて生徒会を回しているはず。
こんなに早く仕事が終わるとは思わないが。
そう思って入り口を見ると、ここにはいないはずの人物が肩で息を整えていた。
「……黄瀬、さん……?」
思わず立ち上がると、彼は大股に近づいてきて、詞織の細い身体を抱きしめた。
男性用のコロンと汗が混じり、どこか甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「あの、どうしてここに? 部活は?」
平静を装いながらも、心臓はバクバクと騒がしいくらいの音を立てていた。
仕方がないと思う。
だって、家族以外の男性に抱きしめられたことはないのだから。
「……詞織っちが、泣いてると思って、駆けつけたっス……」
……わたしが?
紗良が何か話したのだろうか?
もしそうなら、誤解を解いておかないと。
詞織はやんわりと彼の腕を解き、笑ってみせた。