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たとえば、キミを愛する倖せ【短・中編集】

第4章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】②


 ……伝言、伝わったかな?

 窓に映った自分の姿を見て、詞織は自嘲する。
 せっかく誘ってくれたが、この格好ではさすがに会えない。

 紗良には、学校に備え付けてある公衆電話から電話をした。
 長いつき合いで、電話番号を記憶していたのが幸いしたのだ。

 詞織が着ているのは、制服ではなく学校指定のジャージ。
 制服は、水に濡れてしまった。
 兄のファンにホースで水を掛けられ、携帯も濡れて壊れた。

 今度は防水の携帯にしなくては。
 まだ使って半年と少ししか経っていなかった携帯を手に、こっそりため息を吐く。

 正面玄関を通り抜け、詞織はいつも使っている旧図書館へ向かった。
 進学校だからか、新設された図書館は生徒が大勢集まる。
 決して騒がしいわけではないけれど、人がいるとどうにも集中できない。

 その点、旧図書館を訪れる生徒は、ほとんど自分だけ。
 一人になりたいときと、静かに課題を終わらせたいときには打ってつけだ。

 旧図書館に着いた詞織は、机に課題を広げる。
 必要な教科書を並べて、周囲をぐるりと見渡した。
 空っぽの棚は、まるで自分を見ているようで自嘲してしまう。
 ふぅと息を吐き出し、壊れた携帯を机に置いた。

「…………」

 彼は……黄瀬は、今頃部活だろうか。
 旧図書館の時計は、誰も人が訪れなくなっても、未だに正確な時刻を指す。
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