第4章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】②
「アンタだけなのよ、詞織と向き合おうとしてくれたのは。アンタは、詞織に一番近い場所にいる。あたしじゃない。あたしじゃ、詞織を救えない……っ」
泣いているかと思った。
けれど、紗良の目から涙は零れていなくて。
それでも、それを必死で堪えていることは分かった。
「黄瀬、いつまで休んでるんだ! 練習再開するぞ!」
呼びに来た笠松が、紗良を見てビクッと身体を震わせた。
女性が苦手だからだろうか、顔を真っ赤にして続ける。
「と、とにかく、さっさと話を切り上げて……っ」
「スイマセン、笠松センパイ! オレ、具合悪いんで早退するっス!」
「はぁっ⁉ オマエ、何ふざけて……っ! めっちゃ元気じゃねぇか!」
後ろから怒鳴ってくる笠松を振り切って、黄瀬は紗良の腕を引っ張って走った。
「ちょ、ちょっと、黄瀬! あたし、紙袋してなっ!」
更衣室の外で彼女を待たせ、手早く身支度を整える。
「黄瀬、何のつもり?」
「鴇坂学園まで案内してほしいんス」
「鴇坂に?」
「オレ、今すぐ詞織っちに会いたい」
そう言うと、紗良は悔しそうな顔を逸らした。
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