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たとえば、キミを愛する倖せ【短・中編集】

第4章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】②


「あの子はずっとそんな中で生きてる。耐えてるなんてカワイイもんじゃない。あの子はもう諦めてるのよ」

 紗良の話に、ギュッと拳を握りしめた拳が震えた。
 泣いてしまいそうだった。
 あの、悲しげな表情の裏にある重い現実に。
 小さな背中で受け止めるには重い人生に。

「黄瀬、アンタは詞織の何が好きなの?」

 紗良は射抜くような、どこか縋るような目で見上げてきた。

「あの子に告白する男はアンタが初めてじゃないわ。でも、結局は『理事長の娘』、『鴇坂家の次女』っていう肩書きや、詞織の外見を見てくるヤツが多かった。断れば、『それしか価値がないクセに』って、ヒドイときは殴られることもあったわ」

「そんなっ……」

 どこの誰だと突っかかりそうな気持ちを必死で抑え込んで叫んだ。

「何で兄貴は助けないんスか⁉ 元は兄貴が原因っしょ⁉」

「表立って助ければ、結局報復は詞織に向く! 表面上は収まったって、姑息な連中はいくらでもいるのよ!」

「だからって……っ!」

「だから聞いてるの!」

 紗良は黄瀬の胸を押す。
 彼女の細腕でよろめくようなことはなかったが、彼女の強い瞳に射抜かれて、黄瀬は息を呑んだ。

「アンタなら分からなくはないでしょ? 詞織の立たされている立場が」

 グッと奥歯を噛みしめる。

 ……分かる。
 全てが理解できるわけじゃない。

 それでも、外側だけしか見てもらえない孤独や、人より劣っているというコンプレックス、何でもできてしまうが故の虚しさ。

『モデルの黄瀬 涼太』しか見てくれないファン。

『キセキの世代』で末席の自分。

 バスケに出会う前の、何でもできるせいで、何もかもがつまらなかった頃。

 その一つ一つが、今の話と少しだけ重なった。
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