第4章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】②
「……詞織の家族がすごいって話はしたわね」
一つ頷いて先を促す。
「あの子は……詞織は本当にすごいのよ。何でもできるし、とってもカワイイし」
そんなことはもう分かっている。
「でも、あの子の実力は快音や詞織の姉さんに一歩及ばない。詞織が『鴇坂の凡才』なんて呼ばれてるのは、それが理由よ」
忌々しそうにそう言って、悔しそうに奥歯を噛みしめた。
「あの子が凡才? バカげてる! 詞織より劣った連中が詞織を嗤って、バカにして……っ! あんなに……あんなに優しい子を……っ! その上っ!」
しゃくりあげるようにして続けようとした紗良は言い淀んだ。
「何スか? その上って……」
黄瀬の言葉に、彼女は押し殺した声で続ける。
「……あの子の双子の兄の快音は、勉強も運動も芸術も全部完璧で、それに顔も良い。そんな人間が学校にいたらどんな扱いを受けるか、アンタなら分かるでしょ?」
「……女子にモテるってことっスか?」
「そういうこと。で、そんな人間に可愛がられている子がいれば、たとえ妹でも……」
……そういうことか。
――――イジメ。
その単語が容易に浮かんだ。
「初等部の頃からずっとよ。双子なんて近い距離にいるから、余計に比較される。あんな化け物みたいな天才がいるせいで。嫉妬からのイジメ、加えて嘲笑」
詞織は昔から人助けをしていたから、隠れファンも少なくはない。
けれど、そのファンは助けてくれるわけではない。
それに、そのファン以上に詞織を悪く言う輩は大勢いた。