第2章 風を司る者
そこは数多の人骨を積み重ね、黒く染まった紛い物の獣達が舌を垂らしながら
何かを引きずっている
地面に擦りつけられたものは赤く
命を削られながら連れてこられた痕跡
ヒルトは拳を握りしめながら一言も話す事なく
溢れそうな憤りの気持ちを抑え続けるが
ユリエフは吐き気を感じていた
獣は街はずれの場所から旅人を襲い
その息の根を完全に止めず、半殺しにした状態で己の洞窟に引きずり、連れてきていた
「この魔族は既に意思を芽生えかけているとみていいですわ。
ただ人を喰うのではなく、楽しみながら喰っているのですから。」
「魔族に意志が芽生えかけるということは、進化しているということですか」
ヒルトの冷静な質問にキャリーは静かに頷く
「本来、魔族とは生命体が闇に染まり、殺戮衝動に駆られる異物の塊であり
血肉を喰らうことで生命を保てる存在。
それを繰り返すことで、魔族は喰った者の魔力も手に入り、進化する事が可能なのよ。
進化した魔族は意志をもち、特殊な能力に芽生える・・
これをほっておけばどうなるか、インドリームならおわかりよね?」
「人々は虐殺され、世界が闇に染まります。
けどそんな事させませんよ、俺達インドリームがいる限りは。」
ヒルトの揺るがない強い意志をキャリーは直ぐに感じ取れた
そして、同時にユリエフも恐怖ではなく
立ち向かう意志をハッキリ持つ目をしていた
「答えは聞かずとも宜しいわね。
魔族の場所は町外れの洞窟でここから東に1キロほど。
法術の印を洞窟の近くに予め刻んでいるから、それを目印に行きなさい。」
「わかった、俺達に任せてくれ」
「必ず、この魔族を阻止します」
「期待してるわよね、インドリーム」
ヒルトとユリエフの答えにキャリーは満足そうな笑みを浮かべ、その場を転送魔法で去った
魔族が映し出されていた巻物はキャリーが消えたことで効力を失い
輝きを失い、灰となって消えた
「魔族の場所はここから東に1キロということは、今から行けば夕暮れまでには間に合うか。
クライヴ、力を貸してくれ」
「・・・仕方ないな」