第5章 水と火
満月が夜道を照らしつけるほど明るかった
宿屋の屋根には黒い人影が一人揺らめく
眼以外を黒いローブでまとい、迅速に動く
それは熟練した暗殺者のなせる技
「・・・。」
宿屋の3階、301号室の鍵をピッキングで簡単に開け
音も立てずに侵入する
暗闇の室内には3つ部屋が分かれている
暗殺者はまっすぐに突き当たりの部屋の扉をあけ
奥で眠っている少年の前に立ち止まる
(間違いない、さっきのインドリーム、ヒルトと呼ばれていた男だ
部屋の位置からするに、やはりこいつがリーダー・・?)
暗殺者が腰のポケットから何かを取り出そうと手をいれた瞬間
ゴンッ‼︎
鈍い音が頭に響いた
「っ?!」
先までヒルトの前に立っていた自分がいつの間にか2メートル離れた壁に頭をたたきつけられ黒い手袋をした何者かに鷲づかみされている
手足は痺れるように動かず、舌も力が入らない
まるで呪いをかけられているような感覚
「この魔力・・インドリームか」
「?!」
暗殺者を鷲づかみしながらインドリームとよぶ者は
黒いショートヘアに赤い瞳をした闇墜ちの少年
(こいつ、どうして俺の正体を?!
いや・・・そもそもあのヒルトとかいうインドリームの仲間なのか?!)
必死に考える暗殺者
だが、答えが導かれる前に床にたたきつけられ
両手を背中に回して拘束される
(やばいっ・・!)
顔を包んでいた黒いローブは無理矢理剥がされ
その素顔が明るみになる
赤い髪をつかみ、闇墜ちはこちらをにらみつけている
暗い部屋で夜中とはいえ、その瞳は赤く光り、確実に敵意の眼をしていた
「そのへんでいいだろう、クライヴ」
先まで眠っていたヒルトはベットから起き上がり、冷静に話した
その表情、寝癖のない髪型を見れば一目瞭然だった
熟睡などしておらず、暗殺者へみせていた姿は演技であることがすぐにわかる
「ヒルト、こいつがインドリームだからといってお前を傷つける可能性がないわけではない。
少しは用心しろ」
「そうだな、けど見境なしに敵意をもつのもどうかと思うしよ
彼は俺に用があってきたんだろ
もう拘束するのも呪術をかけるのもやめてやれよ」