第5章 水と火
透き通る水の中、青く長い髪は水中にとけるように揺めく
人なら潜り込めないであろう水深100メートルはある場所で
その人魚は鰓呼吸もなく息をし、小さな魚に囲まれていた
「ーーーーそう、門兵はそう言っていたのね」
悲嘆な表情をむけ、独り言をつぶやく
いや、正確には魚と話していた
魚達は小さい声で語りかけるが泡の音や水流の音で人魚の声しか聞き取れない
「また彼等に会えば伝えておいて
私は諦めない、と。」
魚の群れの中心に手をかざし、人魚が話すと
魚の群れも同じ人魚の形に模したように陣を組み
お辞儀をするような仕草をして更に水深へと潜って言った
「さて、戻ろうかしら」
水面へと向かい、太陽の光が強くさしてくる
水から顔を出し、近くの岸辺へ泳ぐ
広大な海に面している岸辺には少年が釣りをしており、人魚の為に衣類を用意していたように、綺麗に服が折りたたまれていた
船着場のように木材の橋が作られた場所に
人魚は躊躇なく海から身を乗り出し、衣類へ手を伸ばす
水色の瞳に、透けた肌
日光で輝く鱗をみにまとうエメラルドグリーンの人魚特有の下半身は
水色に包まれながら人の足へと変わっていく
人魚はごく普通の少女へと姿を変え、長い髪は二つに分けて縛り
黒いタンクトップと下着に着替え、髪の水気をとっている
「どうだったんだ?
王様の意向は」
釣りをする少年は少女に背をむけるようにして声をかけた
赤い短髪に紺色のバンダナをまき
真紅の瞳と両手にはグローブをはめている
襟を立て、黒とベージュを基本にした服の袖はめくられ
大きめに履いたズボンをショートブーツの中にいれたその姿は
よくある旅人や冒険者の服だった
「そうね、海王はまだ深水からでてくるつもりはないらしい
暗黒戦争から10年経ってるのにね」