第9章 ディオン連邦共和王国
「知っているとも」
アレックスの心に浮かんだのはヘイデンの能力だ
ヘイデンは魔族でありながら意志を残したまま半暴走していた特殊な存在であった
それゆえ、抑制装置を付けても魔族のままの姿であり
魔族になった時に身についた能力も自由にコントロールして使用できる
そして目の前にいる魔人こそ、ヘイデンの能力そのものである
《精神投影武闘術》と言われるそれは、術者の精神に影響して人格を持って生み出される闇の化身
心の中に眠る闇を土台として作り出された、物理的な攻撃も可能な異形の魔人と化する
魔人に人格があってもそれは一種の多重人格と同じであるため、術者の命令には必ず従う
「・・ヘイデン、僕は君と戦いたくない
頼むから心を鎮めてくれ」
「ーーーアレックス、我々はどうしても決別する道しかないようだ」
「・・・」
瞳を赤く光らせるのは魔族や闇堕ちでは敵対する際のサイン
ヘイデンは赤く光らせる瞳を次第に目閉じてゆき
小指で魔人に命令を下す
ドッというような風がアレックスの頬を擦り
目にも止まらない速さで隣に立っていた木に魔人の手がめり込んでいる
強く握られた拳を木の中から引き抜き
長い舌を見せながら笑う魔人
「アレックスゥ〜」
掠れた声で挑発するように口を動かす
「っーーー!」
目がない魔人とはいえ、目を合わせるように見つめれば殺される
獣族ゆえの生存本能による直感が働き、身動きができない
かろうじて視界の片隅で表情を手で隠すようにするヘイデンは
閉じていた瞳を開き、アレックスを睨んでいる
どうすれば切り抜けられるか
それのみを必死に考えていたが、問題は思った以上に早く決着がついた
「ヘイデン、もうそのくらいでいいんじゃない?」
「!」
森の中から突如声だけ響かせ、姿を現したのはユーインだった
「僕たちが脅したり止めようとしても、アレックスは止まらないよ
彼は夢を持っているからね」
呆れた表情で話しているが、確実に場をおさめるための内容だ
「ユーイン・・我々のこの装置はそんな安いものでもなければ
己の欲や夢を果たすために意志を取り戻しのではない!」
「ーーーそんなのわかってるよ。
けど、アレックスは頑張ってくれたじゃないか
意志を取り戻した後、組織へ入り、多くの同胞達を助けてくれた
もう、彼の自由にしてもいいんじゃないかな」