第8章 監獄と闇の騎士
「・・っ・・・」
薄暗い森の中、重い足取りで歩く
空を優雅に舞う蝶が一匹
木々の間を通る
目眩と吐き気と頭痛に襲われる
体の中にため込んだ魔力が暴走しかけることで生じる
一種の拒絶反応
精神は闇で覆われつつあり、少しでも意識をなくせば
あの暗黒戦争時のように、体を操られる
そんな苦闘を強いられながら、それでも進み続けるクライヴ
「くっ・・ミレイア・・」
左手で目を隠すように顔を抑え、歯ぎしりをしながら
一人の女性の名をつぶやく
闇の浸食は進み、左手の爪は獣のように伸び、耳は完全に尖っていた
犬歯は尖り、虚ろな赤い瞳
それでも意思を失くさずにいれたのは、導入の儀式を終えた直後、赤い蝶が接触し、クライヴへ語り掛けた声があったからだ
『クライヴ―――助けて――――
私は・・・いる』
己の手で確かに殺し、絶望に満ちたあの日から
もう二度と会うことはできないと感じていた
だが、生きているとはいいがたい状況でも
言葉を交わすことができ、救える可能性があるなら
その結果、己が死ぬことになろうとも、クライヴにとってはミレイアを自由にさせることが一番優先すべきことだった
かつて、監獄の仕組みが間違っていると感じ、監獄に落ちた者の魂を救ってやりたいと願った
生まれながら身に付き、望まぬとも強まる闇の力が
少しでも誰かを守れる力となれば―――
そう、切実に感じていた
ミレイアを殺め、その死体を巨大な蝶が飲み込んだあの瞬間
肉体は物理的に消滅したが、魂だけは監獄に送られ、赤い蝶の役割を永遠に担わされていた
それが、今のミレイアだった
闇の神は復活し、再び監獄へ魂を落とす機会が現れた
落とされた魂は赤い蝶を経由し、呪いを付与され、鬼神に異形の鬼へと変えられる
そして、永遠に監獄を彷徨う定めとなる
ミレイアの魂もまた、呪いを受けており、おれは鬼神から直接付与された特殊なもの
どんな術を使っても解呪することは不可能と思われていたが
鬼神を完全に消滅させることで、その呪いを消すことができる
過去の記憶を取り戻した際、この方法も思い出したのだ
だが、過去のクライヴがそれを行わなかったのは
鬼神を消滅させるということは、監獄の管理者を失くすことに相当し、同時に消滅させた者も消えてしまう、という鬼神の最後の呪いが発動するからだった