第8章 監獄と闇の騎士
インドリームと闇の騎士は古来から敵対関係であり
それは覆されることのない世の理でもあった
遥か昔、サルナスが英霊になるずっと前に
生前の世界でもインドリームという者達は存在しており
幾度となく剣を交えたこともあった
元火族のラルザも、多くの裏社会を歩き回り
歴史の闇をみてきたが、それでもインドリームが闇の存在に頭を下げる光景は知らなかった
それはユリエフも同じである
クライヴという闇堕ちを、ヒルトが大切な友として
旅を続け、救おうとしている事だけでも
常識を覆す出来事だ
更に、闇の騎士に頭を下げるなど、考えつかなかった
人という種が、己の命を救うために敵へこうべをたれる瞬間のお辞儀ではない
確実に感謝と敬意を表したものだった
すぐに頭を上げようともしないヒルトに
サルナスは固まる口を必死に動かした
「頭を下げるな、ヒルト・クローズ
我々は我々の主の為に必要最低限の事を行ったまでだ
貴様がそこまでするような事ではない。」
「・・・それでも、俺は嬉しかった
俺の大切な友達を助けてくれたことが。」
ヒルトは頭を下げながら、話す
「闇の神に襲われた時、俺はクライヴを救うどころか
更に傷つけることしができなくて、俺自身の非力さを悔んだくらいだ」
「ヒルト君・・」
「この監獄に来てからも、俺たちの世界の常識では考えられない鬼や悪霊が沢山いて、そんな世界にクライヴが落とされたって知った時、不安しか感じなかったんだ」
サルナスは震えるヒルトの手を見つめながら
黙っていた
「だから、闇の騎士が助けてくれたのなら
俺は頭を下げる必要がある
クライヴは、大切な友達なんだ」
「・・・・。」
ラルザはしばらく黙り込むサルナスとユリエフを見合わせながら、呆れた表情をした
「あなた、この監獄へ来て瘴気にでも触れておかしくなったんじゃないかしら
私たちには考えられないことをしているけど」
「常識や価値観は確かに、俺もわかりません
けど、この感謝の気持ちは本物です」
「・・了解した、ヒルト・クローズ
もう頭をあげろ」
サルナスの一言でヒルトは頭を上げた
「我が主の元へ案内してやる」
「!
サルナス?!」
「だが、これだけは伝えておく。
今、我が主は過去と向き合い、儀式を行っておられる
それを邪魔することは許さん
・・変な真似をすればその首をはねとばす」