第5章 水と火
まだ鼻の中に残る同族の血の匂い
不安しか過らない―――
仲間たちが惨殺された現場から森へ続き、そして洞窟が見えてくる
やはりそうだ
家族がどうやって集落を抜け出したのか気になっていたが
この隠れ道の存在をしっていたのだ
そして、戦士たちが使う前に先に使用し、逃げ出したのでった
もはや、見つけている道具は不要
重荷でしかないランタンや釣竿を投げ捨て、背中には槍だけを掛け、薬瓶を咥え、獣のように四つ足でかけ走るゼルペウス
「ミーナ!!!」
洞窟の裏口へたどり着き、警戒などすることなく
ただひたすら名前を呼び続けた
「どこだ・・ミーナ
いるなら返事してくれ!
もう、俺が来たから大丈夫だ!
隠れる必要は」
必死に探し続けるゼルペウスは気付かなかった
足元に隠されていた狩猟用の罠に―――。
グシャッ!
「う゛ぐっ?!」
右足の鱗と骨と肉、全てに鉄で作られた棘の罠が
食い込むようにしっかりと捕えている
激痛が走り、思わずその場でしゃがみこむ
「こんな罠は・・あの時には・・なかったはず・・!」
「その通りだよぉ」
「!」
暗闇の洞窟の中、姿を現したのはあの魔女ルキュリアと
背後には鎧で身を包んだ人間の兵士たちだった
「やはり、全てお前の仕業だったのか、魔女!」
ルキュリアを睨みつけるゼルペウス
だが、まったく動じない彼女は片手にもっているモノを口に運び、食事をしながら返事をした
「うん、それでぇ?」
パリッと音を立てなが食べているモノは
暗闇の中でも何なのか、すぐにわかった
ソレに目を見開き、絶望と、恐怖と、狂気で絶句するほどだった
「あ、これおいしいよねぇ
あたしまぁまぁこういうの食べたことあるけど、今回の個体は格別だったよ」
「そ・・だ・・・」
「ん?」
震える声はとても小さく
食事をするルキュリアには聞き取れなかった
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!」
叫ぶように突然拒絶するその光景に
ルキュリアは更に追い打ちをかけるように、魔術で炎を浮き上がらせ、食していたソレを灯した
四方に広げられた手足と、長い舌
脳天から腹部にかけて串が刺さっている焼き物は
まだ食べられたばかりであり、少ししかかじられていなかった
だからこそ、原型に等しい
「あなたの子供、おいしいね」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」