第1章 王馬くんがクッキーを作ってくれたそうです
「ところでさ、なんで王馬クンは逢坂さんとロシアンルーレットしようと思ったの?」
王馬くんに話しかけた後、「コレは大丈夫じゃないかな」、と狛枝先輩が皿の手前に置いてあったクッキーを選んで渡してきた。
「逢坂ちゃんのいろんな表情が見たいからだよ」
「いろんな表情?」
「いつも逢坂ちゃんって冷静じゃん。だからその氷の表情を崩してやろうと思って」
『…氷の表情って…だいぶ豊かじゃん』
私は1枚目のクッキーを食べ、その味にホッとした。氷と呼ばれてしまったので、出来る限りにこやかに『辛くない』とコメントした。
「話しててもどっか上の空だし、いつもどこ見てるんだかわかんないし」
王馬くんは2枚目をすぐに選んで、臆する様子もなく口に放り込んだ。
少し黙って、もぐもぐと口を動かしている彼は、小動物を彷彿とさせる。
同じことを左右田先輩も考えていたらしく、「黙ってりゃいいのによ…」と呟く声が隣から聞こえた。
「残念ながら美味しいよ。デスソース入りのクッキー、食べてみたいんだけどな」
「じゃあこんなことする必要ねぇじゃねェか!とっとと食え!」
「えー、やだよ。だってこのゲームに勝ったら、逢坂ちゃんにもっと構ってもらえるし」
じっ、と狛枝先輩と左右田先輩の視線が私に注がれる。
その視線の意味に気づき、私も王馬くんの言葉はなんだか語弊があるように聞こえたので、訂正することにした。
『…いや、構うって、研究の息抜きに1時間オレと遊べって言われてるくらいで』
この時期に1時間遊ぶって結構長いですけどね、という言葉を言い終わらないうちに、狛枝先輩がクッキーを1枚手渡してきた。
少し躊躇いながら、クッキーを口に入れる。
『トマト』
「なぁ、もしやとは思ってはいたけどよ、お前ら付き合ってんのか?」
「わぁ勘が鋭いね左右田ちゃん、その通りだよ!」
「うわマジか!こんなヤツと付き合ったら絶対泣かされるぞ逢坂!」
「は?そんなことしないって。デスソース丸々一本、あとで左右田ちゃんのコーラに混ぜといてやるから覚悟しなよ」
「そういうのもお前ならやりかねないヤツだから言ってんだよ!」
「逢坂さん、本当なの?」