第4章 王馬くんが何か言いたいことがあるようです
困ったように笑う彼女の表情もオレは好きだから。
たまに困らせたって、別に悪い気はしない。
でも亜美ちゃんの側にいる他の奴らは、あんまり亜美ちゃんのその顔が好きじゃない。
だからいつも怒られる。
でも我慢出来ない。
いつもいつも無表情な彼女がオレの言動で反応を返すなら、怒ってたって悲しんでたって困ってたって、オレは心のどっかで嬉しいと思ってる。
だって、ずっと遠くから見てるだけだった。
ずっと出会う事なんてないと思ってた。
特別な関係を許されたって、まだ足りない。
全部欲しい。
彼女の心も、身体の自由も、視線も、息遣いも、現在も未来も全て。
「あんまり寂しくさせるとさ…亜美ちゃんなんて捨て置いて、どっかに旅立っちゃうからね」
えっ、嘘。
そう彼女が珍しく焦った声を出したのを聞いて、オレは満足した。
「なーんてね!嘘だよー!オレが亜美ちゃんを置いていなくなったりするわけないじゃーん!何が何でも生き意地汚く生き延びて、付きまとってやるから覚悟しておいてよね!」
あぁ、もうこんな時間か。
そろそろ仕事に行かないと。
とっとと済ませて、すぐ帰ってきて。
亜美ちゃんに抱きしめてもらいながら眠ろう。
…………。
………それまで我慢か。
『…安心した』
「…今の言葉こそ嘘だよ、寂しすぎて愛が足りなくてプチっと潰れて死んじゃいそう。ねぇぎゅってして」
『ははは、そんなさらっと死なないでよ』
「さらっとじゃなきゃいいってこと?じゃあもうちょっとつまらなくない死に方考えておいてあげるね!」
『…そもそも、死なないでよ。生き意地汚く生きるんじゃなかった?』
「そんなの嘘だよ」
『嘘にしないでよ』
不意に彼女の顔が近づいてきて。
視界が亜美ちゃんだけになった。
唇が触れて数秒。
オレたちは瞑目する事なく視線を交わした。
『…死んだりしないでよ』
彼女がまた、悲しげな顔をしてオレを見るから。
答えた。
「…オレが死ぬわけないでしょ?ずっとずっと、亜美ちゃんの側にいるよ」
そして、思った
あぁ、この言葉だけは
絶対に
絶対に