第1章 王馬くんがクッキーを作ってくれたそうです
王馬くんの言動より、私の言動の方が信用に足ると思ったのか、狛枝先輩は特に動揺もせず、私を見つめてきた。
3枚目のクッキーをパクリと口に入れた王馬くんを見ながら、私はため息混じりに答えた。
『付き合ってないですよ』
「はい、これもハズレでした!さぁさぁ逢坂ちゃん、残るは2枚だよ?どっちにする?辛くてヒーヒー言ってる逢坂ちゃんを見れるなんて、本当に激レア中の激レアだよね!この機会を逃したらもう一生、そんな逢坂ちゃんのあられもない姿は見ることができないんだろうなぁ!」
『激レアって…そんなの見たがるのは王馬くんぐらいじゃないかな』
「逢坂ちゃんって勘が良いのに自分のことに関しては無頓着だよね。結構需要あるもんだよ?熱くて火照って困ってる顔見られるだけで幸せって男はさ」
『誰かが辛くてヒーヒー言ってるのを見たいと思ったことがないからね。王馬くんが特殊なんだよ』
狛枝先輩は口元に拳を置いて何かを考えていたけど、また口角を上げて微笑みを作った。
そして彼は私に最後のクッキーを渡してきた。
「そうかな?ボクはそれが好きな子だったらそういう一面も見てみたいけど」
『いや、狛枝先輩もですか?』
私がクッキーを口に入れる瞬間、王馬くんがにやにやと笑っているのが目に入った。